dankaijrgenの日記

団塊ジュニアの心の叫び

男だって生きづらい「キン肉マン」にみる父権社会

団塊ジュニア世代が子供の時に夢中になったアニメのひとつ「キン肉マン」を通じて、この世代が感じているんじゃないかと思うことについて書いています。

 

1.団塊ジュニアの不運と牧歌的時代

大学受験戦争、就職氷河期に続き、8050問題など、何かと社会を暗い方向でにぎわしてる*1団塊ジュニア世代ですが、私たちにも比較的平和な時代がありました。バブル景気が始まる直前の小学生時代。昭和の家庭に1台しかないテレビの前で毎週楽しみにしているテレビ番組の数々です。今のようにオンデマンドで自分の好きな時に好きな番組を観るどころか、ビデオデッキ*2も普及が始まったばかりの時期で、兄弟姉妹でのチャンネル争いは現役でした。

 

2.団塊ジュニアが夢中になったアニメ「キン肉マン

全国の小学生男子を(中心に)夢中にさせたTVアニメ「キン肉マン」。日曜日の10時に全国の小学生はテレビの前に正座待機。キン消しの高額取引やキン肉マン芸人のトークから、他の世代にもじわじわと浸透してきていますが、次々と優良なコンテンツが供給される昨今で、主人公がブサイクで(イケメンの定義には入らないという意味で)100巻近く出ているマンガを今更読もうというのはなかなか腰が重いんじゃないかと思います。

 

Wikipediaのあらすじから*3

日本に住む人間を超越した存在・超人のキン肉マンことキン肉スグルが、仲間の正義超人と共に、次々に立ちはだかる強敵とリング上で戦っていく、プロレス系格闘漫画。
戦うことによって形成される友情の美しさを主眼においており、敵役として登場したキャラクターたちが主人公たちとの戦いの末に仲間になるのが一つのパターンとなっている。また当初は「ダメ超人」と人々にバカにされながらも、地球の平和を守りたいと戦い続けた主人公の成長していく姿も描いている。

読者から募集した超人をマンガで登場させるという、今でいう双方向マーケティングの手法が使われていたり、友情・努力・勝利という少年ジャンプの三大要素を確立した漫画だとか言われています。

 

3.「キン肉マン」のストーリー構成

今からでもわかるはじめての『キン肉マン』教室から。*4

1979年~1987年の連載は大きく以下のように分かれます。

  1. 怪獣退治編~超人オリンピック編
  2. 7人の悪魔超人編
  3. 黄金のマスク編
  4. 夢の超人タッグ編
  5. キン肉星王位争奪編
連載はいったんここで終了しています。この後も話が続きますが、再び連載が開始されたのが10年以上後なので、いったんここで区切ります。
 

ストーリー展開で分けるとこうなります。

 ①怪獣退治編~超人オリンピック編:怪獣退治や超人オリンピックでは育まれた友情、主人公とその仲間の成長を描く
 ②③7人の悪魔超人編~黄金のマスク編:悪い超人が主人公やその仲間との戦いを通じて改心する。悪い考えを吹き込んだラスボスを退治する
 ④夢の超人タッグ編:主人公と今までに加わった仲間が究極のタッグパートナーを模索し、トーナメント戦に挑む
 ⑤キン肉星王位争奪編:主人公の王位継承に際し、その正当性を示すためのトーナメント戦
 

物語の構造について。

物語の構造については、こちらのブログ*5から引用させてもらいます。

Slide

オタクプレゼン大会のススメ⑤「なぜアシュラマンは正義超人になれなかったか-『キン肉マンII世』における父性の問題-」より
 
「とりあえず①悪いやつが来て、②キン肉マンたち正義超人が応戦し、③悪いやつ(の一部)が改心して正義に傾く、その流れで描かれる正義超人や悪魔超人だったキャラクターとの「友情」がアツいよねということで有名になった漫画です。」
「その後、次の悪いやつと戦うのではなく、④悪い考えを吹き込んでいたラスボスがやってくるんですね。⑤そいつを倒すことで悪い超人を救うのです。」
「ラスボスって言い方は好きじゃないし、(80年代の段階ですでに)古くさい考え方を押しつける、こういったキャラクター像は、父権社会の”父”と呼ぶべきでしょう。時代性としては、『巨人の星』『あしたのジョー』みたいな、”父”に従って主人公が勝つというストーリーから抜け出す意味合いもあったかと思います。」
「”父”を倒して、古い価値観から友を救おうという物語を繰り返しながら、話が進んでいくんです。」
 
 
①~③までは、この構造で進んでいきます。④は、それまでの集大成です。主人公キン肉マンは、紆余曲折がありながら、①からの仲間であるテリーマンと組んで優勝します。
 
引用させてもらったブログ*6では、「プラトンの『饗宴』」の人間球体説に触れています。

Capture

ゆでたまごキン肉マン』第209話失われたトロフィの巻
もともと人間は二人で一つの球体で、人々はその片割れを求めてさまよっている。キン肉マンたちもより良いタッグを見つけようという話」と説明していますが、この時点で、2人は父権社会に対抗する最高のタッグということになります。
 

4.「キン肉マン」の物語にみる青年期の終わり

ところが⑤は今までの話とは異色です。キン肉マンが王位をかけて争うということは、父権社会(家父長制)の側に取り込まれるという意味です。
上位に国家という概念(共同幻想*7)があって、その統治機構として王権があります。その民衆を支配する単位が家族で制度として家父長制が導入されます。

Slide

国家という概念

キン肉マンは主人公の成長の物語なので、父権社会(家父長制)に対抗する主人公も、いつかは社会体制に取り込まれていくということを暗示しています。青年期の終わり、大人の始まりです。

そうすると④の時点で、タッグパートナーだったテリーマンはどうなるのか?彼は父権社会に対抗する青年期の象徴です。
 

Capture

ゆでたまごキン肉マン』第233話2代目グレート誕生の巻
若さとガッツ、という表現がそれを示しています。
 
 
 
⑤で、テリーマンロビンマスクとともに一旦就いた役職を放棄し、キン肉マンを助けるために駆け付けます。

Capture

ゆでたまごキン肉マン』第288話秘密のメンバー表の巻
 
ですが、あまり活躍しませんでした。
 
キン肉マンは①で師匠から48の殺人技を伝授されています。そして、⑤で52の関節技を伝授されます。防御にも使える技を⑤の時点で伝授されることは、「王位を継ぎ体制を守る側に回る」ということを意味しています。テリーマンにはその機会がなかった。
 
ロビンマスクと交代で活躍する流れになっているので、夢の超人タッグ編で活躍したテリーマンはお休みだった。人気投票の人気がなかったから下げられた。「キン肉マン」が有名になりすぎたことで、モデルであるテリー・ファンクへの肖像権を配慮したなど、いろいろな理由が考えられますが、たぶん作者も話を展開していくうえでキャラを使いづらいと感じたんじゃないかと。
 
作者も編集者もこんなことを考えながら物語を作っているわけではなく、毎週の連載の締め切りに追われながらストーリーを紡ぎだしていくわけですが、それだけに、マンガには作者や編集者を通じてその時代の精神が表れやすい。
 
⑤でキン肉マンはキン肉星の王子であるがゆえに王位争奪戦に巻き込まれます。父権社会(家父長制)は女性だけでなく、男性も幸せにしない制度なんだと感じます。*8
 

*1:東洋経済ONLINE「データが示す『団塊ジュニア』悲劇の世代の4苦難」

https://toyokeizai.net/articles/-/643995

*2:主要耐久消費財の世帯普及率の推移

https://honkawa2.sakura.ne.jp/2280.html


*3:Wikipedia"キン肉マン"

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AD%E3%83%B3%E8%82%89%E3%83%9E%E3%83%B3

*4:今からでもわかるはじめての『キン肉マン』教室
http://wpb.cloudpublisher.jp/kinniku_40th/202001140000/archive/009/beginner_003.html

*5:オタクプレゼン大会のススメ⑤「なぜアシュラマンは正義超人になれなかったか-『キン肉マンII世』における父性の問題-」

https://dashimaki.hatenablog.jp/entry/2020/04/01/213110


*6:オタクプレゼン大会のススメ⑤「なぜアシュラマンは正義超人になれなかったか-『キン肉マンII世』における父性の問題-」

https://dashimaki.hatenablog.jp/entry/2020/04/01/213110

*7:共同幻想論吉本隆明

https://www.nhk.or.jp/meicho/famousbook/99_yoshimoto/index.html

*8: 彼らの子供世代を描いた「キン肉マンII世」で、子供を甘やかすキン肉マンに対し、テリーマンが父権社会を代表するような保守的な厳しい父親になっていたのも気になります。